2019/12/28-30 槍ヶ岳 横尾尾根:その①

2019年の年末は槍ヶ岳の横尾尾根に行ってきた。
このルートは7年前にも挑戦しているが、当時は直前の大雪と天気予報に翻弄されてP2から敗退。雨の中釜トンネルまで帰った苦い記憶がある。以来、何度かリトライが頭に浮かんだが横尾までの長い歩きが面倒でこれまで手を付けずにいた。
それでも今年行くことにしたのは後輩と年末の計画を練る中で、「このメンツなら横尾尾根が妥当かな・・・」と行った結論に落ち着いたからとしか言えないのだが、結果的にはとても面白かった。
最近はある程度見知った顔で山に行くことが多かったが、本番までの過程でお互いのレベル感を共有したり、パーティーとして少し背伸びした山行に挑むこと、そういった楽しみを久々に味わえた気がする。

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<12月28日>快晴
8:50釜トンネル→11:20明神→12:00徳沢→13:20横尾


早朝に東京発、沢渡でFKDと合流。タクシーで釜トンネルまで向かう。連休初日なので上高地方面へ向かうハイカーが多いが、意外にも釜トンに県警はいなかった。できれば雪の情報を聞きたかったが・・・

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この日は横尾までアプローチするだけ。6日分の食料とガスが肩に食い込むが、貧雪のおかげでラッセルが無いのは不幸中の幸い。上高地の時点で積雪は5-10cm、その先明神、徳沢と進んでも大して雪は増えなかった。

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 入山前に寒波が来ていたので現地は結構降っているかと思ったが予想外。雪崩リスクも考えると横尾尾根は末端からアプローチかと考えていたが、この分だと3のガリーから取り付けるかも知れない。
横尾の避難小屋にテントを張った後は空身で3のガリーを偵察。3のガリー取り付きまで来ると、なんとトレースが付いている・・・。連休初日なので我々が一番乗りかと思っていたが出鼻をくじかれた。雪の状態を見るためにピットを掘っても新雪と旧雪の結合も悪くない。この時点で翌日は3のガリーを詰めることに決定。

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横尾に戻ると他パーティーも続々と避難小屋に到着するが、どのパーティー蝶ヶ岳へ行くとの事。横尾尾根はじっくり登れそうだ。
入山祝いに鍋で一杯やり、20時頃就寝。明日からはペミカンの日々。

8月10-13日 飯豊川本流:その③

<8月12日>晴れ時々曇り
5:00BP→5:25滝谷沢出合→9:20天狗沢出合→13:45主稜線→14:45大日岳→17:15飯豊本山→17:30飯豊本山小屋
目覚まし代わりにブロックの浮かぶ氷水を泳いでからスノーブリッジ潜り。

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夜明けの薄暗い谷に霧が立ち込めて不気味な雰囲気だ。ここはヘッデンを付けて雪渓を小走りで抜ける。

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この先はブロックの合間を縫いながら滝谷沢出合まで進んだのち、出合から雪渓の上に立ってそのまま本流上流まで歩く。

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その後は沢床を進めるが、沢が右に屈曲した地点で登れない3m滝に行く手を阻まれる。ここから上部ゴルジュの連続クランクゴルジュが始まる。ここは右岸巻きから藪尾根の中に逃げる。ここから先は両岸とも強烈に聳え立っているので、一度雪渓に降りてロープを抜くと登り返しはできない。雪渓が上流側に繋がっていることを確認してから雪渓の側壁へ懸垂下降。バイルを出して雪渓に乗り上がるが、場所によっては傾斜も強く、足を滑らせたら沢底まで30~40mほど落ちそうなので適当なところから左岸のスラブに乗り移って高巻き開始。スラブのトラバースを繰り返して最後は懸垂で雪渓に降り立つ。

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雪渓の先には4mほどの登れない滝が確認できたので再び側壁に取り付いてから左岸巻き。天狗沢が近づいてくると次第に傾斜は緩むもののクランクゴルジュは圧巻で、飯豊の核心にいることを実感する。これほどの大ゴルジュを経験したのは初めてだ。

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 最後は草付きを歩いて降りて、7m斜瀑を登ると9時過ぎに天狗沢出合に到着。今日のテン場予定地はここのはずだったが、頑張って御西小屋までということで先に進むこととする。天狗沢から御西沢までは厚い雪渓の上を快適に歩けたが、谷が右に曲がるポイントで切れるので左岸に飛び移ってから慎重にクライムダウン。

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すぐ先のスノーブリッジを潜ると、30m文平の滝が姿を表す。過去記録では雪渓から取り付いているものが多かったが今年はすべて露出しているようだ。ここは下半分は水線沿い、上半部は左壁にロープを伸ばしたが、下半分はヌメっていて見た目より悪く感じた。滝上からは5mほどの懸垂下降で沢底に降りる。

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文平滝の先で再び雪渓が現れるがここまでの雪渓に比べればかわいいもの。今回は二俣の雪渓を巻き気味に越えて、文平ノ池に出る左俣へと進路を取る。左俣の遡行は多少気を使う小滝もあるが特に難しいところはなく淡々と高度を上げ、最後に灌木とネマガリタケの藪こぎをこなすと花の咲き乱れる草原、そして文平の池に飛び出した。厳しかった遡行もここまで。遂にやったのだ!

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 この時点で時刻は14時前。昨日の夜には半ば冗談だった大日岳往復からの本山小屋が現実味を帯びてきた。こうなればやるしかない、ということでまずは空身で大日岳へ。山頂はガスが沸いていたが、なかなか訪れる機会もないピークを踏めたのがまずは嬉しい。

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 御西小屋を越え、夕日に照らされる山々を見ながら歩みを進めて飯豊本山に到着。昨年の御秘所沢から一年ぶりだが、昨年と同じメンバーで飯豊本流を遡行できた喜びを噛みしめる。本山小屋では御秘所沢を遡行してきた同じ山岳会のパーティと落ち合え、お互いの遡行を祝った。

 

<8月13日>(晴れ)
5:00本山小屋→5:15飯豊本山→ダイグラ尾根経由で下山→11:00飯豊山
この日も5時出発。最後のピークとなる飯豊本山をじっくり味わってからダイグラ尾根を下降。この尾根はアップダウンが多く、お盆の猛暑も相まってかなり消耗した。まさか2年連続でこの尾根に来るとは思わなかったが、飯豊本流遡行の喜びには代えがたい。
長い長い尾根歩きを終えた後は桧山沢に飛び込んでクールダウン。あとはメジロをあしらいながら飯豊山荘に下山した。

 

<メモ>

・泳ぎ/渡渉/登攀/高巻き/雪渓処理と沢の全要素を常時高いレベルで求められる。激ムズ!な箇所は多くないが、気を抜ける箇所はあまり無い。

・下部ゴルジュは過去に比べて難易度が下がったと思われるが、上部ゴルジュは雪渓の状態次第なので難易度が日々変化する。雪が多いにせよ少ないにせよ、違った苦労を強いられると思う。

・。水量や時期によると思うが今回はライフジャケットやウェットスーツは不要だった。(念の為ライジャケだけ1つ持参したが、殆ど使わなかった)

・行動中の衣類は上半身がファイントラックの半袖網シャツ+フラッドラッシュ、下半身が同じく網パンツ+フラッドラッシュタイツ+七分丈ズボン。これで寒さは殆ど感じなかった。高巻き中は暑いので上半身は網シャツだけで行動した。

・寝る時はタープではなくファイントラックのツェルト2ワイド(ハイカーズデポ別注)を使用。男3人でも普通に寝られる。虫の多いエリアだったり夜冷えることを考えると正解だったと思う。シュラフはイスカのエア130X+モンベルのULシュラフカバー。これで夜は熟睡。

 

<感想>

・初めて飯豊の沢に行ったのは2011年の東俣川千代吉沢。遡行中にメンバーから飯豊本流の話を色々と聞かせてもらったが、雪渓下でのハーケン打ち、大落石、水無しビバークなどの過酷なエピソードが印象に残っている。

・そこから「飯豊川本流」は沢を続ける中で大きな目標となっていたが、実際に行こうと思うまでには多くの年月と数少ないチャンスが必要だった。
力量や志向に信頼の置けるメンバー、そして行きたい山が揃うのは貴重な機会だ。天候や沢の状態を別にしても、今回は条件に恵まれた山行だったと思う。

・メンバーとの信頼感や志向は一朝一夕で醸成されるものではない。「飯豊本流」に向けたトレーニングはもちろん積んできたが、それ以上にこれまで自分の行った山全てがこれからの糧になるのだな、と感じた山行だった。